

タスク
- 謎小説完成
- カミファ漫画1
- カミファ漫画2
ヘッダー用イラスト→完成!- バナー用意
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7月8月に履修したもの
7月はジークアクスのアニメと映画を視聴→1stのアニメと映画3作品を視聴→小説『密会』読了→Zのアニメと映画3作品を視聴
Zの終わり方に戸惑い、映画を見たらちょっと違和感はあったものの「最初からこれをやれ!!??」状態…しばらく引きずり8月へ
8月はZZアニメを視聴しつつZ小説版5冊を読了。その合間にアラサーOLハマーン様を最新巻まで読了→defineを最新巻まで読了(ガンダムエースを購読し始める)
8月末日までにZZのアニメ視聴と逆襲のシャア視聴完了予定。
9月の予定は小説版ZZを読破→C.D.A.を読破→デイアフタートゥモロー読破→オリジン視聴までが目標です。それぞれがどれくらいの長いのかわからないので計画ズレるかもしれませんが、多分これしばらくは宇宙世紀から出られません!
7月はジークアクスのアニメと映画を視聴→1stのアニメと映画3作品を視聴→小説『密会』読了→Zのアニメと映画3作品を視聴
Zの終わり方に戸惑い、映画を見たらちょっと違和感はあったものの「最初からこれをやれ!!??」状態…しばらく引きずり8月へ
8月はZZアニメを視聴しつつZ小説版5冊を読了。その合間にアラサーOLハマーン様を最新巻まで読了→defineを最新巻まで読了(ガンダムエースを購読し始める)
8月末日までにZZのアニメ視聴と逆襲のシャア視聴完了予定。
9月の予定は小説版ZZを読破→C.D.A.を読破→デイアフタートゥモロー読破→オリジン視聴までが目標です。それぞれがどれくらいの長いのかわからないので計画ズレるかもしれませんが、多分これしばらくは宇宙世紀から出られません!
瞳に映るもの
#カミファ
ZZ-カミーユの看病をするファ
いつもの時間。仕事の休憩の合間に、ファはカミーユが療養する一室の扉を開いた。
「カミーユ、お散歩しましょうか」
今日は天気がいいから、そう言いながら窓の外をぼーっと眺める虚な瞳を覗き込んだ。今は何を見ていたのかしら、そう考えてみたが、当然わかるはずはない。それでもファは微笑みかける。
掛け布団を優しく傍に寄せ、側にある車椅子に彼を乗せようとした。その時、カミーユの手がファの頬に触れた。一瞬何が起きたのかわからないファだったが、その手が優しく頬を撫でてくれている。それが少しくすぐったいと笑った。
「か、カミー……」
「フォウ、来てくれたんだね」
まっすぐとファを見つめているはずのカミーユの瞳。だが、そこにファの姿は映っていなかった。
カミーユは地球で恋をしてきた。それは自分じゃない誰か。あの時すでに、カミーユは心を地球に置いてきてしまったのではないか。
しばらく呆然としていたファだったが、我に帰るとカミーユの手を取り、自身の頬から離した。
「ごめんね。あたしはフォウって子じゃないの……」
カミーユの心が宇宙に砕けた日、あの日からカミーユはその名前を何度も口にした。どこにいるのか、会いたかった、待っていた、その言葉の後に出てくるのは知らない名前。
その名前を聞くたびに、ファは何度も何度も挫けそうになった。もしかしたらカミーユは一生このままなのではないか。そう一瞬でも思ってしまう。だが、ファは諦めなかった。
「辛いのはカミーユの方よね」
カミーユが怯える表情を見せることが日に日に増えてきた。今でも宇宙の戦いを感じ取っているのだろう。
昔から何かと多感で神経質気味な彼だが、それを大人はニュータイプと呼んだ。カミーユはそのニュータイプの力が強いらしい。
「ただの普通の男の子なのにね……」
ファはカミーユのことを特別な人だと感じたことはない。少しばかり優しすぎる心の持ち主なだけだ。そんな彼が戦争に巻き込まれ、心を傷まない訳がない。
「さ、外に出ましょう」
彼の身体を抱え、車椅子に乗せて外に出た。まるで宇宙で争いが起きているとは思えないほど、澄み切った青空が広がっている。
だが、カミーユは見向きもしなかった。キョロキョロと何かを探すように、落ち着かない様子で周りを見ている。
病院内の中庭を進み、途中のベンチ前でファは足を止め、カミーユの顔を覗き込んだ。
「ねぇカミーユ。地球に行けば、そのフォウって子に会えるのかしら?」
ファは地球の重力を感じたことがない。それは一体どんな感覚なのだろうか。コロニーの人工的な重力とは何が違うのだろうか。人々が心惹かれるほど、そんなにいいものなのだろうか……?
ファは知りたかった。彼が何を見て、何を知ったのかを。
「地球でその子に会ったら。そしたら、カミーユも元気になる……?」
そう言い終わる頃には、ファの瞳から雫が流れ落ちていた。ぽたぽた、音を立てて土に染み込んでいくそれを眺めた。
無駄なことなのかもしれない。
ふとそう思ってしまってから、ガクッと膝の力が抜けた。アーガマを捨ててまでカミーユの元に戻ったのに、彼の心に自分はいない。ずっと一緒にいたのに。……いや、居ただけだったのかもしれない。
走る彼の背中を追いかけ、勝手に並んで走ったのは自分だ。彼に頼まれたわけじゃない。
彼を守りたくてパイロット候補生になったのも、勝手な欲望でしかない。彼が本当に側にいて欲しいと思う相手は、自分ではなく——。
抑えていた声が漏れそうになった時、声が聞こえた。
——ファ。泣かないで。
その声にハッとしたファは顔を上げた。
「カミーユ……?」
涙を瞳に溜めたまま、カミーユを見れば、いつものように無表情な、その瞳にファの姿が映った。
「ファ」
たったそれだけ。口を開いたかと思えば、すぐに閉じられてしまった。それでも「ァ」が伸びる、彼の呼び方そのものだった。気のせいではなく、正真正銘彼からの言葉だ。
それに心なしか、彼の口角が上がっているように見える。
彼が励ましてくれていると感じ取ったファはフッと噴き出して笑った。
「ごめんなさいカミーユ。あたし、どうかしていたわ……」
ファは指で涙を払いのけると、服についた砂を手で払い立ち上がった。飛んで行った雫がキラキラと光る。
カミーユはその雫を見守り、ファの動きを追うように顔を上げた。そのまま視線は空に向けている。
「楽しいお散歩の時間だものね」
カミーユの肩に掛かっているカーディガンを綺麗に整え、彼の髪も整えてあげた。ふわふわとした彼の髪を指でなぞる。そろそろ髪を切ってもらう時期だろう。そう考えているファの手を、カミーユが優しく掴んだ。
「ファ」
「……、なぁに?」
また名前を呼んでくれた。ファはそれが嬉しくて彼の言葉を待つように笑いかけた。彼は今、まっすぐと自分を見つめてくれている。それだけで十分で、それだけで満たされる自分自身にファは気付く。
例え元気になったカミーユが自分を求めなくとも、彼の元気な姿さえ見れればそれでいい。ファはいつもの調子を取り戻した。
吹っ切れたような、曇りのない表情のファを見つめるカミーユは、言葉の代わりに微笑み返してみせた。
言葉は何もない。そのはずなのに、ファにはカミーユが何を言いたかったのかがわかった気がした。
「そうね、空が綺麗ね」
カミーユの手を両手で包みながら、ファは空を見上げた。カミーユも、同じように空を見上げた。
2025.08.26閉じる
#カミファ
ZZ-カミーユの看病をするファ
いつもの時間。仕事の休憩の合間に、ファはカミーユが療養する一室の扉を開いた。
「カミーユ、お散歩しましょうか」
今日は天気がいいから、そう言いながら窓の外をぼーっと眺める虚な瞳を覗き込んだ。今は何を見ていたのかしら、そう考えてみたが、当然わかるはずはない。それでもファは微笑みかける。
掛け布団を優しく傍に寄せ、側にある車椅子に彼を乗せようとした。その時、カミーユの手がファの頬に触れた。一瞬何が起きたのかわからないファだったが、その手が優しく頬を撫でてくれている。それが少しくすぐったいと笑った。
「か、カミー……」
「フォウ、来てくれたんだね」
まっすぐとファを見つめているはずのカミーユの瞳。だが、そこにファの姿は映っていなかった。
カミーユは地球で恋をしてきた。それは自分じゃない誰か。あの時すでに、カミーユは心を地球に置いてきてしまったのではないか。
しばらく呆然としていたファだったが、我に帰るとカミーユの手を取り、自身の頬から離した。
「ごめんね。あたしはフォウって子じゃないの……」
カミーユの心が宇宙に砕けた日、あの日からカミーユはその名前を何度も口にした。どこにいるのか、会いたかった、待っていた、その言葉の後に出てくるのは知らない名前。
その名前を聞くたびに、ファは何度も何度も挫けそうになった。もしかしたらカミーユは一生このままなのではないか。そう一瞬でも思ってしまう。だが、ファは諦めなかった。
「辛いのはカミーユの方よね」
カミーユが怯える表情を見せることが日に日に増えてきた。今でも宇宙の戦いを感じ取っているのだろう。
昔から何かと多感で神経質気味な彼だが、それを大人はニュータイプと呼んだ。カミーユはそのニュータイプの力が強いらしい。
「ただの普通の男の子なのにね……」
ファはカミーユのことを特別な人だと感じたことはない。少しばかり優しすぎる心の持ち主なだけだ。そんな彼が戦争に巻き込まれ、心を傷まない訳がない。
「さ、外に出ましょう」
彼の身体を抱え、車椅子に乗せて外に出た。まるで宇宙で争いが起きているとは思えないほど、澄み切った青空が広がっている。
だが、カミーユは見向きもしなかった。キョロキョロと何かを探すように、落ち着かない様子で周りを見ている。
病院内の中庭を進み、途中のベンチ前でファは足を止め、カミーユの顔を覗き込んだ。
「ねぇカミーユ。地球に行けば、そのフォウって子に会えるのかしら?」
ファは地球の重力を感じたことがない。それは一体どんな感覚なのだろうか。コロニーの人工的な重力とは何が違うのだろうか。人々が心惹かれるほど、そんなにいいものなのだろうか……?
ファは知りたかった。彼が何を見て、何を知ったのかを。
「地球でその子に会ったら。そしたら、カミーユも元気になる……?」
そう言い終わる頃には、ファの瞳から雫が流れ落ちていた。ぽたぽた、音を立てて土に染み込んでいくそれを眺めた。
無駄なことなのかもしれない。
ふとそう思ってしまってから、ガクッと膝の力が抜けた。アーガマを捨ててまでカミーユの元に戻ったのに、彼の心に自分はいない。ずっと一緒にいたのに。……いや、居ただけだったのかもしれない。
走る彼の背中を追いかけ、勝手に並んで走ったのは自分だ。彼に頼まれたわけじゃない。
彼を守りたくてパイロット候補生になったのも、勝手な欲望でしかない。彼が本当に側にいて欲しいと思う相手は、自分ではなく——。
抑えていた声が漏れそうになった時、声が聞こえた。
——ファ。泣かないで。
その声にハッとしたファは顔を上げた。
「カミーユ……?」
涙を瞳に溜めたまま、カミーユを見れば、いつものように無表情な、その瞳にファの姿が映った。
「ファ」
たったそれだけ。口を開いたかと思えば、すぐに閉じられてしまった。それでも「ァ」が伸びる、彼の呼び方そのものだった。気のせいではなく、正真正銘彼からの言葉だ。
それに心なしか、彼の口角が上がっているように見える。
彼が励ましてくれていると感じ取ったファはフッと噴き出して笑った。
「ごめんなさいカミーユ。あたし、どうかしていたわ……」
ファは指で涙を払いのけると、服についた砂を手で払い立ち上がった。飛んで行った雫がキラキラと光る。
カミーユはその雫を見守り、ファの動きを追うように顔を上げた。そのまま視線は空に向けている。
「楽しいお散歩の時間だものね」
カミーユの肩に掛かっているカーディガンを綺麗に整え、彼の髪も整えてあげた。ふわふわとした彼の髪を指でなぞる。そろそろ髪を切ってもらう時期だろう。そう考えているファの手を、カミーユが優しく掴んだ。
「ファ」
「……、なぁに?」
また名前を呼んでくれた。ファはそれが嬉しくて彼の言葉を待つように笑いかけた。彼は今、まっすぐと自分を見つめてくれている。それだけで十分で、それだけで満たされる自分自身にファは気付く。
例え元気になったカミーユが自分を求めなくとも、彼の元気な姿さえ見れればそれでいい。ファはいつもの調子を取り戻した。
吹っ切れたような、曇りのない表情のファを見つめるカミーユは、言葉の代わりに微笑み返してみせた。
言葉は何もない。そのはずなのに、ファにはカミーユが何を言いたかったのかがわかった気がした。
「そうね、空が綺麗ね」
カミーユの手を両手で包みながら、ファは空を見上げた。カミーユも、同じように空を見上げた。
2025.08.26閉じる
いつか届くと
#カミファ
カミーユ精神崩壊直後-カミーユ視点
「ファは強い子だから」
今思えば、その言葉に随分と甘えていたと思う。志願兵として軍に所属してから、たくさんの理不尽を味わって来た。それでもファは諦めず、戦い抜いた。
ひとり生き残ったファは、アーガマ唯一のパイロットとして充分やってくれたと思う。クワトロ大尉もエマさんもいない。ひとりでアーガマを守る姿を、何もできずに僕は見守った。
長い長い夢を見ていた。そんな感覚だ。ベッドに横たわる自分を、その側で俯瞰する。不思議な感覚だった。幽体離脱なんて言葉があるが、それに近いものではないかと今なら思える。だけどあの時はそうも言ってられなかった。自分の身体を見下ろしているはずなのに、気がつけばベッドをも通過し、外に広がる宇宙を見てしまう。
耳には誰かの声が聞こえてくる。誰もいないはずの病室で、廊下から誰かが歩く音が聞こえてくる。誰かがくる。その感覚に、なぜか怯えた。
足音ともに、誰かの意思が頭に響いている。それは哀しみだった。張り裂けそうなくらい心が哀しみに満ちて、それは今にも壊れそうで、しかしそれをなんとか抑えている。その人は泣くにも泣けないのだろう。
その人の心に可哀想だと同情するのも違った。ただひたすら、その気持ちが自分の気持ちだと錯覚してしまうのだ。
違う誰かの感情が入ってきた。それはあっという間に心が哀しみに満ちていった。身体を、精神が誰かに乗っ取られていく。そんな感覚に怯えていた。
「カミーユ、ご飯を食べましょう」
そう言って食事を運んできたのはファだった。あんなにも哀しみを抱えているのに、その表情は柔らかく、凛とした中に優しい温かみのある声が僕の心を塗り替えてくれた。
——ファ!
彼女の名前を呼んだ。そして彼女を抱きしめた。そうしているはずなのに、自分の身体はいまだにベッドの上から動いていない。
触れられない。
それがこんなにも怖いことだと思ったことがなかった。グリーンオアシスにいた時は、鬱陶しさを覚えてしまうほどいつも彼女が隣にいた。爪を噛むな、風呂に入ったか、なんて母親代わりを気取っている。そんなことを思ってしまった日もあった。
手を伸ばせば触れられる距離にファがいた。いや、居てくれていたんだと今ならわかる。
地球でフォウを亡くした悲しみを抱いたまま、アーガマに帰還した時。居住区ではつい彼女の姿を探してしまった。だがどこを探してもファの姿は見えない。
喧嘩をしたまま地球へ降下したことを悔やんだのは当然だ。あんなやりとりが最後になるなんて、考えてすらいなかった。
だけど、これが彼女にとっては幸せなんじゃないかと思いもした。自分のせいで彼女が両親と離れ離れになったのだから、僕なんていない方がいい。憎むべきだと。
そして戦争とは関係のないところで、元気に暮らしてほしい。そう思いながらも、心には不安がひとかけらあった。
そんな不安を抱えていたが、ファはパイロット候補生としてアーガマに戻ってきた。それは嬉しいことでもあったが、同時に、また巻き込んでしまったという後悔もあった。
ファにパイロットは似合わない。戦う人間ではないからだ。将来の夢として人の役に立つことを目標にしていた、優しい女の子なのに……。
アーガマではたくさん喧嘩をした。それをレクリエーションだとか揶揄われたが、少しだけグリーンオアシスでの日常が戻ったような感覚があった。これも今思えば安心感というやつなのだろう。
強くて優しい。そんなファに対して甘えながらも、随分とぞんざいに扱ってしまった。フォウのことを諦めきれずにいたことを、当然見抜いていただろう。それでも甘えさせてくれた。彼女が拒否してこないことを、僕もわかっていた。酷い話だと思う。卑怯な奴だと今にしてわかる。
だが、何もかも遅すぎた。
後悔も懺悔も、ファの気丈さに惹かれていたことに気付いたのも、彼女に触れることすらできないとわかった時だった。
薄く開かれた口に、ファがゆっくりと食事を流し込んでいく。口からこぼれた液体をそっと拭っては、諦めずに食事を運んでくれている。
「もうすぐで病院に連れて行けるわ。そうしたらゆっくり休んで……、元気になるのよ。横になっているだけのカミーユなんて、カミーユらしくないもの!」
そう励ましてくれるファの肩に、腕を伸ばした。触れられない。でも、彼女の温かさだけは伝わってきた。
ファは戦争が終わればいつもみたいな日常に戻れるのか、そう聞いてきたことがあった。その時、僕はそれを肯定することができなかった。自分の役割を理解したからだ。でも、今なら僕もファと同じ気持ちだ。
——あの頃に、戻りたいな……。
隣に並んで走るファに。口うるさく叱ってくれるファに。誰にでも優しいファに、もう一度触れたい。
白く細い身体を抱きしめていても、その実感がない。でも、ファは確実にそばにいる。こんな僕を見捨てず、ずっとそばにいてくれている。
彼女が抱える哀しみは、その原因は僕だ。ファの胸の奥でトゲとなって刺さる哀しみを、取り除いてあげたい。そうすれば心から笑ってくれるはず。いつものように叱ってくれるはず。いつもの日常の、その先を二人で歩いて行けるはずだ。
——ファ。ごめん。ありがとう。
今はまだ触れられないが、いつかこの手が君に届くように……。
2025.08.26閉じる
#カミファ
カミーユ精神崩壊直後-カミーユ視点
「ファは強い子だから」
今思えば、その言葉に随分と甘えていたと思う。志願兵として軍に所属してから、たくさんの理不尽を味わって来た。それでもファは諦めず、戦い抜いた。
ひとり生き残ったファは、アーガマ唯一のパイロットとして充分やってくれたと思う。クワトロ大尉もエマさんもいない。ひとりでアーガマを守る姿を、何もできずに僕は見守った。
長い長い夢を見ていた。そんな感覚だ。ベッドに横たわる自分を、その側で俯瞰する。不思議な感覚だった。幽体離脱なんて言葉があるが、それに近いものではないかと今なら思える。だけどあの時はそうも言ってられなかった。自分の身体を見下ろしているはずなのに、気がつけばベッドをも通過し、外に広がる宇宙を見てしまう。
耳には誰かの声が聞こえてくる。誰もいないはずの病室で、廊下から誰かが歩く音が聞こえてくる。誰かがくる。その感覚に、なぜか怯えた。
足音ともに、誰かの意思が頭に響いている。それは哀しみだった。張り裂けそうなくらい心が哀しみに満ちて、それは今にも壊れそうで、しかしそれをなんとか抑えている。その人は泣くにも泣けないのだろう。
その人の心に可哀想だと同情するのも違った。ただひたすら、その気持ちが自分の気持ちだと錯覚してしまうのだ。
違う誰かの感情が入ってきた。それはあっという間に心が哀しみに満ちていった。身体を、精神が誰かに乗っ取られていく。そんな感覚に怯えていた。
「カミーユ、ご飯を食べましょう」
そう言って食事を運んできたのはファだった。あんなにも哀しみを抱えているのに、その表情は柔らかく、凛とした中に優しい温かみのある声が僕の心を塗り替えてくれた。
——ファ!
彼女の名前を呼んだ。そして彼女を抱きしめた。そうしているはずなのに、自分の身体はいまだにベッドの上から動いていない。
触れられない。
それがこんなにも怖いことだと思ったことがなかった。グリーンオアシスにいた時は、鬱陶しさを覚えてしまうほどいつも彼女が隣にいた。爪を噛むな、風呂に入ったか、なんて母親代わりを気取っている。そんなことを思ってしまった日もあった。
手を伸ばせば触れられる距離にファがいた。いや、居てくれていたんだと今ならわかる。
地球でフォウを亡くした悲しみを抱いたまま、アーガマに帰還した時。居住区ではつい彼女の姿を探してしまった。だがどこを探してもファの姿は見えない。
喧嘩をしたまま地球へ降下したことを悔やんだのは当然だ。あんなやりとりが最後になるなんて、考えてすらいなかった。
だけど、これが彼女にとっては幸せなんじゃないかと思いもした。自分のせいで彼女が両親と離れ離れになったのだから、僕なんていない方がいい。憎むべきだと。
そして戦争とは関係のないところで、元気に暮らしてほしい。そう思いながらも、心には不安がひとかけらあった。
そんな不安を抱えていたが、ファはパイロット候補生としてアーガマに戻ってきた。それは嬉しいことでもあったが、同時に、また巻き込んでしまったという後悔もあった。
ファにパイロットは似合わない。戦う人間ではないからだ。将来の夢として人の役に立つことを目標にしていた、優しい女の子なのに……。
アーガマではたくさん喧嘩をした。それをレクリエーションだとか揶揄われたが、少しだけグリーンオアシスでの日常が戻ったような感覚があった。これも今思えば安心感というやつなのだろう。
強くて優しい。そんなファに対して甘えながらも、随分とぞんざいに扱ってしまった。フォウのことを諦めきれずにいたことを、当然見抜いていただろう。それでも甘えさせてくれた。彼女が拒否してこないことを、僕もわかっていた。酷い話だと思う。卑怯な奴だと今にしてわかる。
だが、何もかも遅すぎた。
後悔も懺悔も、ファの気丈さに惹かれていたことに気付いたのも、彼女に触れることすらできないとわかった時だった。
薄く開かれた口に、ファがゆっくりと食事を流し込んでいく。口からこぼれた液体をそっと拭っては、諦めずに食事を運んでくれている。
「もうすぐで病院に連れて行けるわ。そうしたらゆっくり休んで……、元気になるのよ。横になっているだけのカミーユなんて、カミーユらしくないもの!」
そう励ましてくれるファの肩に、腕を伸ばした。触れられない。でも、彼女の温かさだけは伝わってきた。
ファは戦争が終わればいつもみたいな日常に戻れるのか、そう聞いてきたことがあった。その時、僕はそれを肯定することができなかった。自分の役割を理解したからだ。でも、今なら僕もファと同じ気持ちだ。
——あの頃に、戻りたいな……。
隣に並んで走るファに。口うるさく叱ってくれるファに。誰にでも優しいファに、もう一度触れたい。
白く細い身体を抱きしめていても、その実感がない。でも、ファは確実にそばにいる。こんな僕を見捨てず、ずっとそばにいてくれている。
彼女が抱える哀しみは、その原因は僕だ。ファの胸の奥でトゲとなって刺さる哀しみを、取り除いてあげたい。そうすれば心から笑ってくれるはず。いつものように叱ってくれるはず。いつもの日常の、その先を二人で歩いて行けるはずだ。
——ファ。ごめん。ありがとう。
今はまだ触れられないが、いつかこの手が君に届くように……。
2025.08.26閉じる
あと3話でZZを見終わる!相変わらず置いてかれているファちゃん…悲しむ人が大勢いるのはわかるけど、ファちゃんだってカミーユがいなくなったら悲しいんだよ。もうどこにも行かないであげて……
ジュドーが運転しようと席入ろうとしたら追い出すカミーユ子供みたいで可愛い。よしなさいって叱るファも可愛い。
ジュドーが運転しようと席入ろうとしたら追い出すカミーユ子供みたいで可愛い。よしなさいって叱るファも可愛い。
